ベストフレンド 第1章
その日、吉澤ひとみはとっても機嫌が悪かった。
お味噌汁でヤケドした。お気にの口紅がおれた。携帯をトイレに落っことした。
ティッシュの箱を踏んづけた。電車が異常に混んでいた。
しかも、お尻を触られた。・・・・・などなど。
どれもあんまりたいした事じゃなかったが(そうか?)、積み重なっていくとツライ。
そんな不幸の分だけ吉澤の眉間にはしわが刻まれていき、
ハロモニ収録現場に着く頃には泣く子も黙る様な、もの凄い顔になっていた。「おはよ〜、吉澤ぁ〜・・・ってうのぁ!!?」
挨拶してきた飯田の顔がこわばった。一緒に来た安倍も吉澤の顔を見て開いた口がふさがらない。
加護なんて後退りしながら、「お金ないですぅぅ。カツアゲはやめてぇ〜。」
とか言い出す始末。
加護のおふざけに皆笑ったが、吉澤の眉間にはさらに1本しわが増えた。集合時間になったが1人足りない。しばらくして廊下からか細い声がした。
「遅れてすいませぇ〜ん!!!!」
「遅いよ?石川っっ!」
「ごめんなさ・・・・あ、よっすいーオハヨ〜」
ごめんなさいも言い終わらないうちに石川は吉澤に挨拶をした。
「おはよ!梨華ちゃん☆」
ピュン!ピュピュピュピュピュン!
吉澤の眉間のしわが音を立てるかのように元に戻っていく。
「よっすいが戻っていくです・・・・すごいのれす・・・・・」
辻は奇跡でも見てるかのような顔で吉澤を眺めた。拝んでもいた。逆に面白くない顔をしたのが後藤と矢口だ。
(なんでよ。私との会話じゃご機嫌直らなかったのにさ・・・。)
ひそひそと2人の話し声が聞こえる・・・。2人の眉間にしわがよる。
「あららら。よっすいのしわがコッチに移ったです。」
そんな2人を見た辻から余計な一言が入る。2人からのツッコミも辻に入る。
「何だって、辻!?」
「・・・・・何でもないれす。・・・怖いのれす」「恋の力だよねぇ〜。しっかし、すごいよねえー。」
保田の言葉に対し、ちぎれんばかりに首を縦に振る安倍と加護だった。「以上!!チャーミー石川でした〜♪」
「また、お前が持っていくんか〜!」
今日も今日とてダラケ具合も良い感じにハロモ二の収録が終了。「ふぅ、お疲れ様。梨華ちゃん、今日はこれで終わり?」
「うぅん。カントリー娘の取材があるからまだ帰れないんだ。」
「そっかあ、大変だね。じゃぁ、お先っっっ」
「うん、よっすいお疲れ様ぁ。」
仕事ならしょうがない、と吉澤は1人で帰る事にした。「おつかれさんっした―――!!!」
男っぽい挨拶で吉澤が帰ろうとしたその時、吉澤の袖をつかむ者がいた。
「どしたの、辻」
「よっすい〜〜、ちょっと良いですか?チョ〜ット、ヨイデスカ〜??」
「・・・神は信じないよ。」
「いえ、真面目な話なんれす。聞いてくらさい。」
ふと見ると、辻の後ろには加護もいる。珍しく2人とも顔がマジメだ。
「話って何?」
「いや〜実はですね〜、新しいモノマネをののと・・・・・・・」
「お疲れぇ〜、ばいばーい」
加護が言い終わらないうちに、吉澤は立ち去ろうとした。
「嘘れす。すんませんでした。待ってくらさい。」場所を変えて、スタジオの向かいにある某喫茶店。
「で?本当の話って何??」
聞きながら吉澤は別のことを考えていた。
(この2人、辻加護の分は私のオゴリかなぁ…?高いパフェ2人して食いやがって)
辻加護が目配せをした。そして、ボソッと口を開いたのは辻だった。
「・・・あのですね〜、実は梨華ちゃんの事なんですよ」
「・・・・・梨華ちゃん?梨華ちゃんがどしたのさ。」
「えぇとお、最近梨華ちゃん元気ないなって思って」
そう答えたのは加護だった。
「そう?いつも通りに・・・・イジメられてたじゃん〜」辻と加護がまた目配せした。と思ったら同時に話し出した。
辻「この間ですね〜梨・・・」加護「この前のことなん・・・・」
「いや、それ目配せした意味あるの・・・?」「梨華ちゃん・・・泣いてたんです。」
「!?え、何で・・・」
「・・・わかりません」
辻加護の話によると、1週間ほど前の収録後、
忘れ物を取りに行った辻が石川(たぶん)の泣き声が聞こえたそうだ。
また、おとといも加護がトイレで石川らしきすすり泣きを聞いたと言う。
「2人とも、この事他のメンバーや誰かに言った?」
辻加護揃って首を横に振った。
「そっかー。一応、メンバーのみんなにはまだ黙っててね」
「わかりました。」
「了解なのれす」
「あ・・・りがと。ここはオゴったげるね」
吉澤はカップに残っているコーヒーを音を立てて飲み干した。
***つづく***