ベストフレンド 第2章
帰りの電車の中で、吉澤は考えていた。
(何でも私だけには言ってくる梨華ちゃんなのに、最近泣いたなんて・・・聞いてない。
と言う事は誰にも言えない秘密?!って言うともしかしてぇ・・・)
「イジメにでもあってるのかな・・・・・」
ポツリと呟く吉澤。眉間には朝出発した時と同じくらいしわが寄っていた。家に帰宅して少し仮眠を取った吉澤は石川に電話してみた。
「・・・・・・・でね〜、雑誌に載ってたバッグがすごく可愛くて・・・・・」
電話の内容もいつも通りで、石川の電話での口調もいつも通りだった。
石川はアパートで一人暮らしをしている。やはりちょっと寂しいのか電話をするとついつい長電話になりがちだ。
タイミングを見計らって悩み相談の話に持ち込もうとするのだが、
石川の話はやめられない止まらない・・・
「・・・・・でね〜、すっごいビックリしちゃったの!あ、ビックリといえばこの前ね〜・・・」
「・・・・・って言われちゃって!可哀想なのー。あ、可哀想といえばさ〜・・・」
「・・・・・占いよかったのになぁ〜・・・あ、占いと言えばなんだけどぉ・・・」
さすがに我慢の吉澤も疲れてきた。
どうにか『困ってる事無い?』って話題に変えようとしたが、
ちっっっとも止まらない。そこで吉澤は思い切って悩みの話を石川に話し出した。「さっ、最近さ〜梨華ちゃん元気無くない?」
「へぇ?!な、何?急に・・・そんな事無いよ」
「そう?ね・・・ねぇ、なんか悩みがあったら私に言ってね。一緒に悩んであげる。」
「・・・・・・・・ありがと よっすい〜。今日はもう寝ようか・・・。」
「え゛っ!?・・・・・あ、うん・・・じゃね。おやすみ」
「おやすみなさい・・・。また明日ね」
ガチャ。電話を切ったあと、吉澤は確信した。
(辻と加護の言う通りかも。梨華ちゃん自ら電話を切ろうなんて・・・!)
吉澤は困ってる人を見たら何かかまってやらないと気が済まない。それが石川ならなおさらだ。
「梨華ちゃん大丈夫かなぁ・・・。心配だ・・・」
そう気にしつつも吉澤は眠りに落ちていった。次の日の朝も、吉澤は機嫌が悪かった。
毎週食べに行ってるベーグルのお店がなぜか閉まっていた。
歯磨き粉をお気にの靴下の上に落とした。テレビの占いが最下位だった。
定期が昨日で切れていた・・・・・その他もろもろ。
その分だけ吉澤の眉間にはしわが(以下略。)「おっはよぅ、吉澤ぁ・・・・・って今日もかよ!!」
飯田からツッコミが入る。安倍も昨日と同じような顔をしている。
「この光景、つい最近見たような気がするよ・・・」
安倍のおとぼけに矢口からのツッコミが入る。
「最近じゃないよ、昨日見たよ。まぁ、でも石川の顔見たらまた直るっしょ」
「そだね。」何度もやけくそのように首を縦にふる後藤だった。
しかし、そんな時安倍がみんなにこう言った。
「石川、急にカントリーの仕事入って今日は来られないってサ」
その言葉を聞いてメンバー全員が吉澤の顔・・・、というか眉間を見た。辻はなぜか拝んでいた。
案の定、眉間のしわは最高潮に達していた。そこはプロ、楽しかった出来事を思い出したり、メイクの技術とかで
吉澤の眉間のしわをカバーして目立たなくなって本番。
「おねが〜いフラッシュ!!」
今日はおねモーの収録。
出演するのは飯田、安倍、矢口、後藤、吉澤の6人。
石川はいない、一日仕事を共にしないだけなのに・・・・・ツライ。
辻加護の石川が泣いてたっぽいって言う話と、梨華ちゃんが悩みを話してくれない事が
吉澤を根拠の無い不安にかりたてていた。「おつかれさまっしたっ!!」
夜8時過ぎの仕事の帰り道、吉澤は携帯から石川の自宅にかけてみる事にした。
・・・・5・・・6・・・7・・・。8コールを過ぎても出ない。と思ったら、
チン。ツー、ツー、ツー
「へぇ〜。ずっと鳴らしてると切れるのかぁ・・・新発見だぁ。・・・な訳ゃ無い!!
梨華ちゃん家に居るじゃん!」
(?あれ?・・・どうして出ないで切ったんだろ。)
どう考えても納得いかない。また吉澤の眉間には1本しわが増えた。(寝ボケてたとか?)
(でも電話に出たって事は起きてたってことでしょ?)
(嫌われた??)
(でも昨日の電話は普通に話してたし・・・それから会ってないのに?)
(さっきのは家にかけた訳だから、誰からか解んなかったハズだし・・・)
頭がこんがらがってきた。
「ぅう〜、私アタマ良くないんだから!無理させないでょ〜白髪になるじゃん!」ちょっと落ち込みながら駅に着いた吉澤。いつもの帰りに電車を待つ。
すると、いつも通り、先に反対側のホームに逆方向行きの電車がきた。
石川と一緒に帰る時は石川がこの電車に乗って帰る。
それを見送ってから吉澤はしばらくしてから来る反対側のホームに来た電車に乗って帰る。
特に決めた訳ではないが、そんな感じだった。吉澤の待っている電車はまだ来ない。
逆方向行きの電車をボーっと見ていると、色々な人が降りて乗っていく。
その様子を見ている吉澤のうつろな目が、だんだん光を帯びてきた。
(・・・・・行って・・・みようかな!)
発車のベルが鳴って、吉澤の胸の内に響いた。
その音で吉澤は決断した。足を反対に向けて逆方向行きの電車に駆け込んだ。
「ふぅ・・・悩むより行動!だよね♪」
もう眉間にしわは残っていなかった。
車内には、駆け込み電車はご遠慮ください・・・。のアナウンスが流れた。30分くらい吉澤は電車に揺られていた。
「やっと着いた」
そして駅から少し歩く質素な感じのアパート。でも白い外観はキレイだ。
エレベーターで上がり、石川の部屋の前に来た。チャイムを押してみる。
・・・・・・出てこない。返事も無い。
もう1回鳴らす。やっぱり出てこない。
一応こっそりとドアノブを回す。やっぱり閉まってた。「ちょっと待ってみっか」
家の前で待つ。9月後半はさすがに寒い。立ったりしゃがんだり、足が冷えてきた。
10分が過ぎた。さすがにツライ。
「・・・・帰ろ」
出かけてるなら駅に行く途中で、すれ違うかもしれない。帰り道、吉澤の携帯が鳴った。曲は「ドラえもん」。
この着メロは石川専用で、石川の時しか鳴らない。
「梨華ちゃん、もしもし?あれっ、今梨華ちゃん家に行っ・・・・・」
「たす・・・・け・・・・・・くる・・・・・・・・・・し・・・」
「えっ!え?もしもし??・・・・もーしもーしっ!!!」
何も返事が無い。心臓がドクンて言った。脂汗も出た。
着信元は石川の携帯からだった。どこからかけて来たか解らない。でも吉澤は石川の家に引き返した。
無我夢中で走り出した。
(周りから何も音が聞こえなかった、人の声とかしなかった!)
吉澤は走った。走った走った走った。
(梨華ちゃん家で当たってるはず!っていうか当たってて!!お願い!)
走りながら、そう祈った。
=つづく=